NICU(新生児集中治療室)について解説

NICUってこんなところ

NICUは、「Neonatal Intensive Care Unit」の略で、新生児集中治療室のことです。早く生まれた赤ちゃん、小さく生まれた赤ちゃん、呼吸の助けが必要な赤ちゃん、心臓などに病気がある赤ちゃんたちが治療を受けたり、元気に大きく育つための部屋です。
ここでは、新生児を専門に治療する先生や看護師たちが、24時間体制で治療やお世話をしてくれます。NICUには常に赤ちゃんの呼吸や心拍、体温を管理するための特別な機械や設備が整っていて、普通の新生児室とは別の部屋になっています。

早産児は生まれたときにからだの機能が未発達で、からだにトラブルや病気(「早産児に起こりやすい病気・トラブル」)がでてしまう可能性があります。そのため、担当の先生以外にも小児外科、眼科、脳神経外科、耳鼻科、心臓外科など、いろいろな専門の先生たちが赤ちゃんを診てくれます。

NICUの歴史

早産児や低出生体重児を含む病的新生児に対する医療は、1800年代にフランスではじまり、その後ドイツなどのヨーロッパからアメリカへと広がりました。
日本では、1901年に保育器が初めて輸入され、1921年には東京大学の育嬰室で早産児の保育が行われるようになりました。1940年代後半になると、早産児に対する医療が日本で広く行われるようになり、1950年から60年代に全国に未熟児室と呼ばれる専門の病棟や医療センターが設置されるようになってきました。

そして、1970年ごろから、もっと積極的な治療を行うための集中治療施設として、現在のようなNICUが設置されはじめてきました。また、新生児用の人工呼吸器や観察用モニタが進歩したり、医療器具などが開発されたりして、より多くの赤ちゃんの生命が助かるようになりました。
その後、NICUが全国に設置、地域化されたことで、日本の新生児の死亡率が低くなり、今では世界でもっとも低い水準を保っています。

1800年代 新生児医療がフランスではじまり、ドイツ、ヨーロッパからアメリカへと広がる。
1896年 東京大学に育嬰室がつくられる。
1901年 日本でLionの保育器を購入。
1940年代後半 日本で早産児医療が開始される(名古屋市立大学、国立岡山病院、大阪市立大学、賛育会病院など)。
1956年 都立母子保健院、国立岡山病院に未熟児センター、名古屋市立大学に未熟児病棟が開設。
1960年~70年 全国に未熟児室やセンターの設置、整備。
1970年 NICUが設置されはじめる(聖マリア病院、日赤医療センター、聖隷浜松病院、小児病院など)。
1970年代後半~ 産科と新生児科が連携した周産期母子センター、母子総合医療センターの開設。新生児医療の地域化が進められる。
2000年代 周産期医療体制の整備として、総合周産期母子医療センター・地域周産期母子医療センターおよび搬送体制の整備等が行われる。
2017年、全都道府県において出生1万人当たりNICU25~30床整備。
2021年4月時点では、全国で総合周産期母子医療センターとして112か所、地域周産期母子医療センターとして296か所が認定されている。

乳児と新生児の死亡率(出生1,000対)

乳児と新生児の死亡率(出生1,000対)

出典:厚生労働省:人口動態調査 (2019年)

NICUのこれから

以前は、外から入ってくる細菌などから抵抗力の弱い赤ちゃんを守る意味で、NICUでの面会はママやパパだけに限定されたり、短い時間しか会うことができませんでした。しかし、NICUにいる赤ちゃんがからだも心も元気に育つためには、生まれたときからママや家族とより多く触れ合うことが大事だということがわかってきました。
そのため、最近は24時間いつでも自由にNICUに入ることができたり、ママやパパはもちろん、おじいちゃん、おばあちゃんだけでなく、赤ちゃんの兄姉の面会ができたりする病院もあります。

また、ママやパパが参加する治療として、赤ちゃんを素肌で抱っこする「カンガルーケア」や、赤ちゃんをやさしくマッサージする「タッチケア」が行われています。カンガルーケアやタッチケアによって赤ちゃんと触れ合うと、赤ちゃんの心や呼吸が落ち着く効果があります。そして、ママやパパがもっている良い菌に包まれることで赤ちゃんの免疫力が上がり、感染を予防する効果があります。最近は、親子で24時間一緒に過ごせる個室を設置しているNICUもあります。

NICUは「赤ちゃんの治療の場所」として進歩してきましたが、それに加えて「赤ちゃんの発育の場所」、「家族の育児の場所」としての機能もあわせもつ場所として変わりつつあります。これからのNICUは、家族が参加する医療、家族中心の医療を提供する場所になっていきます。

NICUのこれから

保育器(クベース)はママの子宮の代役

NICUでは、赤ちゃんは保育器の中で育ちます。
保育器の大きな役割は、体温・温度調節と感染予防です。

体温・湿度調節

生まれたばかりの早産児は、体温を調節する機能がまだ十分発達しておらず、皮下脂肪も少ないため、自分で体温を一定に保つことができません。そのため、体温よりも温度が低いところにいると、寒くならないように余計なエネルギーを使ったり、病気にかかりやすくなったりします。
保育器は、赤ちゃんの皮膚の温度が36~36.5度になるように、常に温度や湿度が保たれており、赤ちゃんにとって快適になるようになっています。

感染予防

ママのお腹の中は病気の原因になる細菌のいない状態ですが、外の世界には細菌がたくさんいます。免疫機能のまだ弱い赤ちゃんを、保育器がいろいろな菌から守ってくれます。

赤ちゃんの命を守る機械

NICUでは、赤ちゃんは呼吸を助ける機械や、栄養をとるためのチューブ、からだの状態がわかるモニタなどにつながれています。

赤ちゃんの命を守る機械

A人工呼吸器

自分で呼吸ができなかったり、肺で酸素と二酸化炭素をうまくガス交換できないときに、口からチューブを入れて赤ちゃんの呼吸を助けてくれる機械です。赤ちゃんは呼吸をする筋肉が弱かったり、ときどき呼吸を休んだりすることがあるため、楽に呼吸ができるように助けます。

B各種モニタ

赤ちゃんの呼吸や心拍数、血圧などを観察する機械です。人工呼吸器をつけていたり、血液の循環不全があったりすると、それを観察するための機械が加わります。

各種モニタ詳細

1パルスオキシメーター(SpO2モニタ)

手足にセンサーを巻きつけて、血液中の酸素飽和度(酸素の取り込み具合)と脈拍を測定。

2非観血的血圧モニタ

腕や足に巻いて血圧を一定時間ごとに測定。

3呼吸・心拍モニタ

3つの電極を胸に貼りつけ、心拍数と呼吸数、呼吸の深度(深い浅い)を観察。

4体温計(モニタ)

皮膚表面から体温を測定。

5換気モニタ・カプノメーター

人工呼吸器が適切に働いているかや、赤ちゃんの呼吸の様子を連続的に観察。

6経皮酸素炭酸ガス分圧モニタ(TcPO2、TcPCO2

採血せず、皮膚にセンサーを貼ることで血液中の酸素や炭酸ガスの濃度の変化を連続的に測定。

7観血的血圧モニタ

動脈に点滴ラインを入れて血圧を連続的に測定。

その他:尿量測定
おしめの重さを計って尿量を経時的に測定。

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C動静脈ライン(輸液ルート)

静脈ラインは、赤ちゃんに必要な薬や水分を入れるための通り道です。用途によって、手足の静脈(末梢静脈ルート)、心臓に近い太い静脈(中心静脈ルート)、おへその静脈(臍静脈ルート)からチューブ(カテーテル)を入れます。
赤ちゃんの胃腸が弱いときに、点滴で必要な栄養素(糖、アミノ酸、脂肪、電解質、ミネラル、ビタミン)を入れることもできます。動脈ラインは血圧の連続測定や採血に使うためのラインです。

栄養チューブ

口で上手におっぱいやミルクが飲めないときに、鼻や口から栄養チューブを入れて胃まで通して、おっぱいやミルクを注入します。栄養チューブのほうが静脈ラインから栄養素を入れる方法より、赤ちゃんのからだには自然な方法です。

栄養チューブ

酸素療法

肺や心臓に病気があったり、呼吸がうまくできず酸素が足りないときに、空気の中から取り出した酸素を吸う治療です。濃度を調節した酸素を保育器やヘッドボックスに流したり、鼻の下に固定したカニュラという管から吸います。

酸素療法

nasal CPAP/DPAP/HFNC
(ネーザル シーパップ / ディーパップ / ハイフローネーザルカニュラ)

呼吸困難や無呼吸発作などのときに、呼吸を助けてくれる機械です。気道や肺に圧をかけて、肺がしぼみきらないようにし、気道を広げて呼吸を楽にする、あるいは換気を助けます。鼻の穴を通して圧を加えて酸素を投与する方法なので、口からチューブを入れる人工呼吸器より負担が少ない方法です。

nasal CPAP/DPAP/HFNC

赤ちゃんが大きくなるための環境づくり

ディベロップメンタルケア

今までママの暗くて静かなお腹の中にいた赤ちゃんは、生まれて明るく、にぎやかな外の世界にびっくりしています。
赤ちゃんがまぶしい光にもキチンと反応できるようになる(虹彩の調節機能がはたらくようになる)のは在胎32~33週以降、耳が聞こえはじめるのは在胎約28週ごろ。それまでは過剰な光や音があるとストレスになります。ストレスがたまってよく眠れなくなると、エネルギーが余計に消費されたり、大きくなれません。
そのため、NICUは、日中は明かりを調節して夜は消灯したり、保育器にカバーをかけたり、できるだけ静かで明るすぎないお部屋になっています。

ポジショニング

赤ちゃんがママの子宮にいるときは、羊水の中で、背筋はまっすぐで手足を折り曲げた体勢でいます。これがとっても安定してる体勢です。しかし、生まれてすぐはまだ筋力が弱く、子宮の外では自分で同じ体勢になれません。
ですので、看護師さんたちが、赤ちゃんの周りをリネンで囲んで、子宮にいたときと同じ体勢を保てるようにしてくれます。

感染対策

NICUは赤ちゃんを感染から守るために、外より気圧を高くすることで外からのゴミやホコリを防ぐ、バイオクリーンルームという部屋になっています。
赤ちゃんに触れるものは滅菌、消毒されていて、先生や看護師さんたちも赤ちゃんに触るときは、手洗いや手袋を使用して行います。

退院前の関わり

授乳、沐浴、日常生活の指導

お家で少しでも安心して赤ちゃんを育てることができるように、退院が近づくと看護師たちが1日のミルクの飲ませ方、沐浴の仕方、赤ちゃんのちょっとした変化にどう対応すれば良いかや注意点など、いろいろ教えてくれます。パパも赤ちゃんのお世話に慣れるために、ママと一緒に教えてもらったり、練習したりできます。

母子入院

退院後の育児の予行演習のために、退院前にママが数日間新生児病棟内に入院できる病院もあります。一緒に過ごすことによって、赤ちゃんの特徴がわかったり、赤ちゃんとの生活に慣れることができます。

訪問指導の依頼

退院した後にママがいろいろ相談できるように、地域の保健師がいます。病院と保健師の間で指導が異なることがないように、退院前から連絡を取り合ったり、勉強会を開いたりして、情報を共有しています。

退院後の関わり

電話相談

ママが赤ちゃんの育児に困ったり、不安があるときのために、NICUではいつでもママの電話相談に答えてくれます。入院中に赤ちゃんの世話をしてくれた看護師さんたちが答えてくれるので安心です。

NICUフォローアップ外来

早産児の発達や発育は、正期産児の赤ちゃんよりゆっくりのときがあります。そこで、赤ちゃんの発達や発育に詳しいNICUの先生が、外来で定期的に健診をしてくれます。NICUの定期健診では、次のような健診をします。

  • 身体発育の健診…身長、体重、頭囲の測定
  • 運動発達の健診…首のすわりや寝返り、はいはい、お座り、つかまり立ちなどの運動機能の発達の評価
  • 感染の防止…予防接種やRSウイルス感染による重症化を防ぐ注射の実施など
  • 離乳食の指導
  • 眼科(視力、眼の動き、斜視など)、聴力(耳の聞こえ具合)、歯科(歯のはえ具合)の健診
  • 精神発達(心理検査)、ことばの発達、対人関係の発達などの健診
  • 育児相談

育児サークル、NICU同窓会などの主催

NICUに入院していた赤ちゃんをもつ家族同士の情報交換や近況報告の場として、NICU主催の育児サークルや同窓会を行っている病院があります。会ではお遊びや記念撮影、NICUの先生による講演などが行われています。

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